2012年12月12日水曜日

「ATI Radeon HD 5800」徹底分析(1)〜「ゲームが変わる」新世代グラフィックス

 さて,HD 5000ファミリー,そしてHD 5800シリーズは,ATI Radeon HD 4000シリーズから提唱され始めた「スイートスポット戦略」を継承した製品群となっている。
 先に補足説明から入ると,2009年10月時点において,競合のNVIDIAは,新世代GPUを,まずウルトラハイエンドのフラグシップ製品として市場投入し,それから徐々に,ハイエンドやミドルクラス,エントリークラスへと,トップダウン式に製品を展開していく戦略をとっている(※AMDグラフィックス部門の前身,旧ATI Technologiesも,ATI Radeon X1000シリーズまでは,この戦略をとっていた)。

 ウルトラハイエンドのフラグシップ製品は,そのブランドの「高性能」なイメージを確立するのに最適である一方,搭載グラフィックスカードの店頭価格は軽く6万円以上。場合によっては10万円近くなることもあり,購入者は,ハイエンドスペック志向のゲーマーか,ベンチマーカーくらいしか見込めない。しかも,フラグシップ製品とミドルクラス以下の製品ではスペックに大きなギャップがあるため,フラグシップGPUをミドルクラス以下の市場に向けて最適化するのには時間がかかり,出てきた頃には,「やっと下りてきた」イメージが強くなってしまうのだ。

 これに対して,maplestory RMT,AMDは,ミドルハイクラス?ハイエンドあたりを「Performance」(パフォーマンス)クラスと定義し,このクラスに,最新世代のGPUシリーズ第1弾を投入することで,コスト(≒店頭価格)を可能な限り低く抑えるとともに,ミドルクラス以下の価格帯へも早いタイミングで落とし込んでいくことにした。この戦略がスイートスポット戦略だ。ある意味,これを「パフォーマンスクラス戦略」と呼んでも間違いではないだろう。
 この戦略だと,理論上,競合のウルトラハイエンド製品には対抗できないことになるが,そこは,パフォーマンスクラスのマルチGPU構成で対抗する。



 AMDは事前説明会で,外部調査期間「Jon Peddie Research」のJon Peddie氏を登壇させ,氏のデータを引用する形で,この“パフォーマンスクラス戦略”が功を奏していることを紹介していた。
 AMDとNVIDIAで,全グラフィックス製品のASP(Average Sales Price,平均販売価格)推移を見たこのデータによると,2008年の第4四半期を堺に,AMDとNVIDIAの立場が逆転していると分かる。2008年第4四半期といえば,「ATI Radeon HD 4800」(以下,HD 4800)シリーズが登場した次の四半期であり,ハイコストパフォーマンスな「ATI Radeon HD 4670」が投入された四半期でもある。

 一応NVIDIAのフォローもしておくと,NVIDIAが大きなダイサイズで,コストのかかるウルトラハイエンドのGPUを開発し続けているのにはワケがある。GPGPU製品として,HPC(High Performance Computing)分野に,「Tesla」ブランドで,精力的に販売するためだ。
 NVIDIAのウルトラハイエンドGPUは,GeForceブランドの製品としては高価だが,HPC用途のGPGPUとしては,破格に安価な製品として評価されており,しかも,その“破格に安価”なレベルでも,NVIDIAにとっては,同じGPUをGeForceとして売るときの10倍近い価格で販売できる旨さがある。今やNVIDIAの最新世代GPUというのは,「3Dグラフィックスも高速に処理できるHPCプロセッサ」というコンセプトになりつつあるのだ。

 話を戻そう。
 AMDは,今回のHD 5800シリーズ発表に当たって,開発コードネーム「Evergreen」(エバーグリーン)とされてきたHD 5000ファミリー全体を通じ,スイートスポット戦略を継続する中短期ロードマップを示している。





 Evergreen(常緑樹)ファミリーということもあり,製品シリーズのコードネームは,軒並み常緑樹。今回発表されたHD 5800シリーズの開発コードネームは「Cypress」(サイプレス)だが,これは建築材として知られるイトスギ(糸杉)から来ている。



 CypressコアのGPUをデュアルGPUで動作させるソリューションは「Hemlock」(ヘムロック)。これはカナダツガ(Canadian Hemlock)という,マツ科の常緑樹から取られたコードネームだが,これまでの命名規則からいけば,製品には「X2」の称号が与えられるはずだ。
 AMD関係者によると,Hemlockでは,デュアルGPU動作時に,ハードウェアレベルで2基のGPUが協調動作する「リアル並列駆動モード」を備えているとのこと。これまでの並列駆動モードは,2基のGPUを交互に動作させるAltanative Renderingモードでないと最大パフォーマンスを得られにくかったが,Hemlockでは,2基のGPUが,あたかも1基のGPUとして動作できる,特別なモードを備えているらしい。2枚のグラフィックスカードを同時に動作させる,ATI CrossFireXよりも,一段高いレベルのデュアルGPU動作が実現されるとのことなので,これには期待したいところ。

 ミドルクラス市場向けに,年内の登場が予告されているのは,開発コードネーム「Juniper」(ジュニパー)。ヒノキ科の常緑樹ネズ(西洋杜松)から取られた名前だ。これまでの命名法則に従えば,“HD 5600”あるいは“HD 5700”シリーズとなる可能性が高い。
 さらに,FF11 RMT,2010年の年明け早々には,開発コードネーム「Redwood」(レッドウッド,セコイアスギの意)と,「Cedar」(シダー,ヒマラヤスギの意)が,HD 5000シリーズのエントリー市場向けモデルとして投入される見込みだ。

 なお,ミドルクラス以下の製品群は,ノートPC用にも同一コアで転用される予定になっている。AMDとしては,向こう半年以内に,すべてのGPUをHD 5800シリーズで置き換える予定のようだ。
 グラフィックス機能統合型チップセットに関してはもう少し時間がかかると思われるが,単体GPU製品は,DirectX 11環境への移行が,相当アグレッシブに進むことになる。
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